プロの安全担当者が教えるリスクアセスメントの進め方と評価のポイント

製造現場や建設現場など、様々な労働現場では日々、数多くのリスクと隣り合わせで作業が行われています。

労働災害を防ぎ、安全で健康的な職場環境を築くためには、これらのリスクを事前に特定し、適切に管理していく必要があります。

そのための重要なツールとなるのが「リスクアセスメント」です。

2006年の労働安全衛生法の改正により、リスクアセスメントの実施が事業者の努力義務として規定されて以来、多くの企業で取り組みが進められてきました。

しかし、「効果的な実施方法が分からない」「評価基準の設定に悩む」「現場への定着が難しい」といった声も少なくありません。

本記事では、長年リスクアセスメントに携わってきた安全担当者の経験をもとに、効果的な実施方法と評価のポイントについて、具体例を交えながら詳しく解説していきます。

初めてリスクアセスメントを担当する方はもちろん、既存の取り組みをより効果的なものにしたいとお考えの方にも、実践で活用できる情報を解説していきます!

目次

リスクアセスメントの基本的な考え方

リスクアセスメントとは

リスクアセスメントは、職場に潜む危険性や有害性を特定し、それによって生じるおそれのある労働災害の重篤度と発生可能性を組み合わせてリスクを見積もり、そのリスクの大きさに基づいて対策の優先度を決定するプロセスです。

単なる危険箇所の発見や対策の列挙ではなく、

限られた経営資源を効果的に活用して職場の安全性を高めていくための戦略的なツールとして捉えることが重要です。

実施時期と頻度

リスクアセスメントは、以下のようなタイミングで実施することが推奨されます

  • 新規設備の導入時
  • 作業方法の変更時
  • 原材料の変更時
  • 職場の大規模な模様替え時
  • 関連法令の改正時
  • 労働災害発生時

また、定期的なリスクアセスメントとして年1回程度の実施を基本としつつ、作業の特性や過去の災害発生状況に応じて頻度を調整することが望ましいです。

実施体制の整え方

効果的なリスクアセスメントを実施するためには、適切な実施体制の構築が不可欠です。

メンバー構成のポイント

  • 安全管理者や衛生管理者などの法定管理者
  • 現場の作業責任者
  • 実際に作業を行う従業員の代表 必要に応じて、設備・機械の専門家
  • 産業医(化学物質等の評価時)

特に重要なのは、現場作業者の参画です。

日々の作業で感じている危険性や問題点を直接反映できる上、参加することで安全意識の向上にもつながります。

実践的な進め方

準備段階での重要ポイント

効果的なリスクアセスメントを実施するためには、事前の準備が重要です。

情報収集

  • 作業標準書や作業手順書
  • 設備・機械のマニュアル
  • 過去の災害事例やヒヤリハット記録
  • 作業環境測定結果
  • 類似業界での災害情報

評価対象の明確化

作業を要素作業に分解し、それぞれについて評価を行います。

例えば、「製品の梱包作業」であれば

  • 製品の取り出し
  • 製品の検査
  • 緩衝材の装着
  • 箱への収納
  • テープ止め
  • パレットへの積載 といった具合です。

危険源の洗い出し方

危険源の洗い出しは、リスクアセスメントの土台となる重要なステップです。

効果的な洗い出しのポイント

多面的なアプローチ

  • 設備・機械の危険性
  • 作業方法の危険性
  • 作業環境の危険性
  • 人的要因による危険性

時間軸での検討

  • 通常作業時
  • 非定常作業時(段取り替え、清掃、メンテナンス等)
  • トラブル対応時
  • 緊急時

現場観察のコツ

  • 実際の作業の様子を観察
  • 作業者へのヒアリング
  • 「なぜ」を繰り返し、根本的な危険源を特定

リスクの見積もり方法

リスク見積もりの基本的な考え方

リスクの大きさは、一般的に以下の要素を組み合わせて評価します:

  1. 危害の重篤度
  2. 危害の発生可能性

それぞれについて、具体的な評価基準を設定します。

重篤度の評価例
  • レベル4:死亡または永久労働不能
  • レベル3:長期療養を要する重症
  • レベル2:通院を要する軽症
  • レベル1:軽微な傷害
発生可能性の評価例
  • レベル4:いつ発生してもおかしくない
  • レベル3:発生する可能性が高い
  • レベル2:可能性はあるが低い
  • レベル1:ほとんど発生しない

リスク評価のポイント

評価基準の設定

リスクの評価基準は、自社の状況に合わせて設定することが重要です。

評価マトリクスの例

重篤度と発生可能性を組み合わせたマトリクスを作成し、リスクレベルを決定します。

例えば:

  • Ⅰ:直ちに解決すべき(重篤度4×発生可能性4,3)
  • Ⅱ:優先的に解決すべき(重篤度4×発生可能性2、重篤度3×発生可能性4,3)
  • Ⅲ:計画的に解決すべき(その他の組み合わせ)

よくある評価の落とし穴と対処法

1. 発生可能性の過小評価

「今まで事故が起きていないから大丈夫」という考えは危険です。災害の潜在的な可能性を考慮することが重要です。

2. 保護具による過度な評価の引き下げ

保護具の着用を前提としたリスク評価は避けるべきです。保護具は最後の手段として考えます。

3. 慣れによる危険性の見逃し

日常的な作業であっても、客観的な視点で評価することが重要です。

効果的な対策立案と実施

リスク低減対策の優先順位

  1. 本質安全化
    • 危険な作業の廃止・変更
    • 危険源の除去
    • 自動化、機械化
  2. 工学的対策
    • ガード、カバーの設置
    • インターロックの設置
    • 警報装置の設置
  3. 管理的対策
    • 作業手順の改善
    • 教育訓練の実施
    • 表示、標識の設置
  4. 個人用保護具の使用
    • 最後の手段として検討

対策の検討プロセス

  1. 対策案の創出
    • ブレインストーミングの活用
    • 他部署や他社の事例参照
    • 専門家への相談
  2. 実現可能性の検討
    • 技術的な実現可能性
    • コストの検討
    • 導入による新たなリスクの確認
  3. 効果の予測
    • リスク低減効果の試算
    • 費用対効果の検討
    • 副次的な効果の考慮

フォローアップと継続的改善

対策の有効性確認

実施した対策の効果を確認することは、非常に重要です。

確認のポイント

  • 意図した通りに機能しているか
  • 新たなリスクは発生していないか
  • 作業性への影響はないか
  • 現場の意見はどうか

記録の作成と活用

リスクアセスメントの結果は、適切に記録し活用することが重要です。

記録に含めるべき内容

  • 実施日時
  • 評価対象作業
  • 特定した危険源
  • リスクの見積もり結果
  • 対策内容
  • 実施後の評価結果

継続的改善のために

リスクアセスメントは一度実施して終わりではありません。

PDCAサイクルの実践

  • Plan:評価計画の立案
  • Do:リスクアセスメントの実施
  • Check:効果の確認
  • Act:さらなる改善の検討

まとめ

リスクアセスメントは、職場の安全衛生水準を向上させるための重要なツールです。

ただし、形式的な実施では本来の効果は得られません。

本記事で解説した以下のポイントを押さえ、実効性のある取り組みとして定着させることが重要です.

  • 適切な実施体制の構築
  • 丁寧な危険源の洗い出し
  • 客観的なリスク評価
  • 効果的な対策の立案と実施
  • 継続的な改善活動

また、リスクアセスメントは安全活動の一環として位置づけ、日常の安全活動と連携させながら進めていくことで
より大きな効果が期待できます。

現場の実態に即した実践的なリスクアセスメントを実施し、職場の安全衛生水準の向上に役立てていただければ幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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この記事を書いた人

HUB.代表
某株式会社(製造請負業)安全衛生担当責任者

安全とは無縁の環境から安全レベルトップまで職場整備を行い
現在15年以上にわたり無災害記録を継続中

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